2022年1月期第3四半期のcoly、下方修正でも斬新さ光るMD戦略
下方修正後は増収減益だが注目すべき強みはトレンドを捉えたMD戦略。決算データから注目の若手経営者のIP戦略を分析した。
colyは2022年1月期第3四半期(2021年2月~2021年10月末)の決算を発表した。第3四半期までの業績は累計で以下の通り。
売上高 :45億5,000万円(前年同期比12.7%増)
営業利益:10億6,600万円(前年同期比11.9%減)
経常利益:10億3,400万円(前年同期比14.5%減)
純利益 : 6億6,700万円(前年同期比15.7%減)
下半期に運営タイトルの周年記念が集中しているため、売上・利益は下期偏重とされていたが、第3四半期の時点で進捗を下回ることから通期の業績予想を下方修正した。修正後の通期業績予想は以下の通り。
売上高 :65億1,600万円(修正前予想から11億7,200万円減、前年比2.9%増)
営業利益:15億6,200万円(修正前予想から6億4,100万円減、前年比24.6%減)
経常利益:15億3,000万円(修正前予想から6億4,400万円減、前年比26.1%減)
純利益 : 9億9,500万円(修正前予想から3億7,800万円減、前年比29.1%減)
2022年1月期は増収減益の見込みだが、創業以来の黒字経営は継続。総資産額は72億3,300万円にのぼり、自己資本比率は91.6%と骨太な財務体質は変わらない。
男性キャラ育成ゲーム2本が着実に成長
colyは男性キャラクターがメインのモバイルゲームを展開している。主力タイトルは『スタンドマイヒーローズ(略称:スタマイ)』(2016年)と『魔法使いの約束(略称:まほやく)』(2019年)。Live2Dを駆使したビジュアルと、厚みのあるストーリーが特長だ。
『スタンドマイヒーローズ』は今年9月で5周年を迎え、周年記念イベント当日には過去最高のDAUを記録。成熟期にありながら、同イベントの期間中に平均DAUが32%増加し、盛り上がりを見せた。
DAUが急上昇した背景には、周年記念イベントと並行して実施された休眠復帰施策「カムバックボーナス」の効果があったようだ。繁体字版の『募戀英雄』でも周年記念イベントを契機にDAUの改善が見られ、国内版、繁体字版共に堅実な運営を維持している。
『魔法使いの約束』は前年から大きく成長した。平均DAUは前年同期比で63%増となり、11月(第4四半期)の周年記念イベントへの弾みをつけた。
減益の主要因は新作にかかる開発コストの増大だ。
現在の開発ラインは2本。内1本は新規自社IPで、今期中のリリースを予定していたもの。クオリティアップのためにリリースが延期され、2022年春から夏頃の配信開始を目指す。もう1本はフジテレビとの協業タイトルで、アニメIPを起用する。
また、これらと並行して既存タイトル『スタンドマイヒーローズ』のリニューアルも進めていく。今期は投資フェイズと捉え、研究開発費は前年同期比で111.3%増、人員の積極採用にともなう採用研修費も大幅に増加した。広告宣伝費は前年同期比で12.6%増加したが、まだ成長期にある『魔法使いの約束』を考慮すれば妥当な投資だろう。
ファン体験重視のMD戦略でIP確立
『スタンドマイヒーローズ』『魔法使いの約束』はどちらもゲームシステム自体はそれほど画期的とは言えない。だが、colyの強みはむしろゲーム外の施策、特にマーチャンダイジングにある。『スタンドマイヒーローズ』では5周年記念イベントの一環として全国5都市で期間限定ショップを展開した。店舗は有楽町マルイ(東京)などの主にF1層のトレンドセッターが集まるファッションビルの一角に設けられ、コロナ禍で小売業が苦戦を強いられる中、連日完売の大盛況となった。
『魔法使いの約束』ではマーチャンダイジング戦略をさらに一歩前進させ、洋服、バッグ、アクセサリー小物、化粧品といったファッションアイテムをラインナップのメインに据えた。
今年10月には人気ブランド earth music&ecology(ストライプインターナショナル)とのコラボレーションを発表し、ゲームのテーマカラーに合わせた5色のニット商品を販売した。ロングスカートとバッグを合わせれば、トータルでコーディネートできるようになっている。
『魔法使いの約束』のグッズはcolyのマーチャンダイジング事業を牽引し、マーチャンダイジングによる今期売上高は8億2,900万円、前年同期比で8.5%増と着実な伸びを見せた。
ゲームとファッションブランドのコラボレーションは相性が良く、ユニクロのデザインTシャツ「UT」など事例は多い。しかし、ゲームのロゴやキャラクターを前面に打ち出したデザインが多く、あくまでファングッズとしての訴求に終始していた。
一方、colyのマーチャンダイジングでは、キャラクターのテイストをあえて抑えた、さり気ないデザインのアパレルグッズが特徴だ。earth music&ecologyとのコラボ商品は、どれも一見ではそうと気づかない。しかし、ボタンやワンポイントの模様にストーリーを想起させる意匠が施されており、その小さな演出がむしろファンに満足感をもたらしている。このような“さり気なさ”はファングッズにおいて新しいトレンドになりつつあるようだ。
従来のファングッズはアクリルキーホルダーなど、比較的単価が安く、全種コンプリートを目指す人も多かった。つまり所有する喜びを提供していたのである。あるいは、推しのキャラクターが他の人の目につくように飾ることで、見せる喜びを感じる人もいるだろう。
ところが『魔法使いの約束』のアパレルグッズはそのどちらでもない。買い集めるには値段が高く、見せるにはキャラクター性が抑えられすぎているようにも思える。にもかかわらず、colyの“さりげなさ”が人気を博したのは、所有する喜び、見せる喜びのさらに奥深くにある「体験する喜び」と結びついているためだ。
もうひとつの主力タイトル『スタンドマイヒーローズ』で期間限定ショップを展開されたのは前述のとおりだが、考えてみれば奇妙な施策である。なぜならcolyは自社でECサイトを運営しており、商品を提供するだけならそこで事足りるからだ。
だが、これも体験という面から考えれば、colyのマーチャンダイジング戦略が見えてくる。colyはただキャラクターがプリントされた物品を販売しているのではない。訴求から購入を経て使用・着用に至るまでのカスタマージャーニーに沿って様々なファン体験を提供しているのだ。
『スタンドマイヒーローズ』のケースで言えば、マーチャンダイジングが提供するファン体験は、都会のファッションビルへと足を向けるところから既に始まっている。美しく洗練された店内で、時には丁寧な接客を受け、キャラクターに思いを馳せつつ、ひとつひとつの商品を手に取り選ぶ。実店舗ならではの幸せな瞬間だろう。1個数百円のアクリルスタンドを買うにしても、アニメショップと有楽町マルイとでは、その本質は全く異なる。
商品そのものがファン(購入者)に与える体験もある。colyの公式ECサイトでは定番のアイテムを含め、様々なグッズが販売されているが、やはり目を引くのは『魔法使いの約束』のアパレルラインナップだ。
同タイトルではearth music&ecologyのほか、アクセサリーブランドのmayla classic、フレグランスブランドのAQUA SAVONともコラボレーションを実施した。mayla classicとはコラボデザインのピアス(イヤリングタイプも有)を販売。大ぶりなので普段づかいとはいかないかもしれないが、やはりキャラクター性は抑えられている。あくまでも“さり気なさ”がコンセプトだ。
そして、その最たる例がAQUA SAVONとのコラボ商品、香水(オードトワレ)である。香りは目に見えないし、手に取ることもできない。これほどさり気ない装飾品は他にないだろう。特にオードトワレは香水の中でも香りが弱く、周囲にアピールするというよりも、自分で香りを鑑賞するような楽しみ方になる。自分の大切なキャラクターを想いながら、素敵な香りに包まれる。これもまた最上級のファン体験と言えるだろう。
良質な購買・商品体験に裏打ちされたグッズは、キャラクターとファン自身との約束――マーケティングで言うところのエンゲージメント――の証となる。その約束の意味を知るのは、購入した私(ファン自身)だけでいい。誰かに見せびらかしたりせずとも、日常の中でその存在を少し体験できるだけで十分幸せなのだから。colyのアパレルグッズがあえてさり気ない演出に抑えているのは、このように情緒的なカスタマージャーニーの緻密な設計が背景にある。
優れたマーチャンダイジングはIPを活性化する。人気IPだからグッズが売れると考える人もいるかもしれないが、実はあながちそうとも言えない。少なくともcolyの場合は逆だ。驚くべきことに、colyにはマーチャンダイジング一本立ちの自社IPがある。それが『オンエア!』だ。
『オンエア!』もいわゆる男性キャラクター育成ゲームに類するタイトルだ。colyの新規IPとして2018年にリリースされたものの、2020年にサービス終了となった。ところが、それから2年経過した今でもグッズ販売は続けられている。今年10月には3周年を記念して東京・池袋のオトメイトビルで期間限定の物販イベントを開催(関連サイト)。現在も公式オンラインショップでは卓上カレンダーなど新商品の投入が相次いでいる。
さらに、サービス終了後も開発・運営チームからユーザーに向けたメッセージを掲載。3周年施策の開催や、一部機能制限版の公開期限の延期などを告知していた。
【関連サイト】
「オンエア!」を応援してくださっている皆様へ
ゲーム自体は既存ユーザー向けに機能限定版が提供されているのみで、メディアミックスもなかったため、残念ながらコンテンツの追加は見込めそうにない。しかし、それでもなお、公式Twitterアカウントは10万人のフォロワーを擁(よう)し、多数のファンアートが寄せられている。グッズの長所はファンの手元にいつまでも残ることだ。
サービスが終わっても、ファン体験は終わらせない。グッズが幸せなファン体験を約束する証として機能する限り、マーチャンダイジングはIPに力を与え続けるのだ。
「10年以上続く作品づくり」
2022年1月期は『魔法使いの約束』の2周年記念イベントが正念場となる。2021年11月16日よりゲーム内ではピックアップガチャが開始、19日に2周年特別シナリオが解禁された。11月17日の時点でiOS App Storeのゲームカテゴリランキングでは爆発的な伸びを見せ、セールスランキングでは最高3位に躍り出た。
イベント期間中の約2週間はセールスランキングで常に高い順位をキープし、エンゲージメントの高さを感じさせる結果だ。また、2周年記念イベントと並行して、新規ユーザー向けの「新米賢者応援キャンペーン」を実施。
無料ダウンロードランキングではランキング圏外からわずか1日で41位まで急上昇した。周年記念イベントと新規獲得施策の同時展開による相乗効果が充分に発揮されたと言えるだろう。
『スタンドマイヒーローズ』でも周年記念のタイミングで休眠復帰に成功しており、周年記念をマーケティングの起爆剤として活用する手腕は高く評価できる。マーチャンダイジングでは東京の渋谷パルコを皮切りに、福岡、名古屋、心斎橋の4都市で期間限定ショップ出店予定だ(詳細はこちら)。
colyの戦略は斬新だ。IPの乱立する昨今のゲームビジネスにおいて「10年以上続く作品づくり」を掲げ、ゲームとマーチャンダイジングの合わせ技でIPの確立に挑戦している。
同社代表の中島瑞木氏、副社長の中島杏奈氏は今年ウーマン・オブ・ザ・イヤーの大賞に選ばれた。若手経営者としてゲーム業界に新風を吹かせる、注目の存在だ。
データ提供:株式会社スパイスマート「LIVEOPSIS」