突然のユーザー離脱からV字回復を成し遂げた理由…『逆転オセロニア』の実践例

運営側の姿勢、コアユーザー減少の影響、炎上後の対応など、「ゲーム運営」の知見が詰まった数々のエピソードを、『逆転オセロニア』プロデューサーが赤裸々に語る。

突然のユーザー離脱からV字回復を成し遂げた理由…『逆転オセロニア』の実践例

2016年2月にリリースされた『逆転オセロニア』(提供:DeNA)は、オセロをモチーフとしつつも、キャラクター同士の連携スキルで、より高い戦略性と一発逆転のスリルを楽しむことの出来るスマートフォン向けリアルタイム対戦ゲームです。

運営1年目で伸び悩んでいた同作は、積極的なオフラインイベントの展開など、“コミュニティ”に根差したマーケティング施策で徐々にユーザー数が増加。そして、初のTVCM放映後に急成長し、一躍人気タイトルとなりました。

▲2016年度 第3四半期決算において、『逆転オセロニア』のDAUの推移が公開。2017年1月から急激に伸びているのが分かります。(出典)2016年3月期 第3四半期 決算説明会資料 p14

ゲームの面白さの追求とコミュニティに根差したマーケティング施策を軸に、2年目、3年目と、順風満帆に運営を続けてきた同作でしたが、実は4年目の2019年にかつてないほどの大炎上が巻き起こったといいます。

運営側の姿勢、コアユーザー減少の影響、炎上後の対応など、「ゲーム運営」の知見が詰まった数々のエピソードを、今回『逆転オセロニア』プロデューサーの香城さんが赤裸々に語ってくれました。

【香城 卓】『逆転オセロニア』プロデューサー。2011年株式会社ディー・エヌ・エー入社。Mobageプラットフォームでのソーシャルゲーム運用・開発を経て、『逆転オセロニア』を企画・開発。「けいじぇい」の愛称で、同タイトルのプロデューサーに従事。

※先般の新型コロナウイルス感染症の対策につき、オンライン上でインタビューさせていただきました

企画・取材・執筆:原孝則

運営4年目に起こった大炎上

――本日はよろしくお願いします。『逆転オセロニア』について、私は過去に(他媒体で)3周年のタイミングでお話を伺ったことがあります。1年目の伸び悩みの頃からコミュニティ形成に努めて、こんにちのヒットがある同作だからこそ、今回の話(4年目の炎上)を聞いたときはにわかには信じがたいものでした……。

ええ。実は4年目は本当に大変な時期でした。

――なかなかお話しづらい面もあるかと思いますが、まずは順を追って事の発端から伺います。実際にどのようなことが起こったのでしょうか。

事の発端は、2018年1月に登場したキャラクター(以下、駒)が、対戦環境に大きな影響を与えたことです。「ファヌエル」と「ベルゼブブ」という駒で、プレイヤーからは通称でファヌブブと言われています。この2体の組み合わせは対戦において飛び抜けた強さを発揮し、徐々にみなさんが使用するようになったのです。

――「インフレキャラの登場」「その後の対応によるユーザーが抱いた運営への不信」などは、ゲーム事業者にとって他人事ではありません。同様に炎上して、信頼を取り戻すまでに苦労したケースは多々ありますし、ゲーム運営の難しさを痛感するエピソードだと思います。ただ、実装当初はいかがでしたか?

性能の高さは評価されていましたが、とくにネガティブな意見は寄せられませんでした。ただ、その年(2018年)の4月に開催した大会「オセロニアンの合戦」でデッキに編成するプレイヤーも多く、そこで驚異的な強さが周知されたと思います。大会は素晴らしい形で幕を閉じましたが、同じくらいにファヌブブの強さも印象に残ったのでしょう。

――キャラクターのステータスの調整には熟考されると思います。それが長期運営タイトルにもなると、インフレキャラの登場は避けられません。ファヌブブ以前にも同様のケースもあったのでしょうか?

運営1年目にありました。「ベリアル」と「ユルルングル」という駒で、通称ユルベリと呼ばれていました。これらは、盤上にある駒の数×1.3倍で強さが上がる特徴を持っていて、当初はその上昇値に天井を設けていませんでした。言ってしまえば、“発動すれば勝つ”という極端に強い駒だったのです。

――その2つの駒(ユルベリ)はNerf(ナーフ – 弱体化や下方修正の意味)したのでしょうか?

はい。上昇値に天井を設ける形でプレイヤーにお詫びしました。

――今回のファヌブブがNerfに至らなかったのは?

いろいろ案を講じたのですが、やはり運営側としてNerfは最終手段でもあります。すぐに修正すれば良かったのかもしれませんが、ユルベリのときの運営1年目と、今回の3年目では状況も異なりますし、結局Nerf以外の案を模索するようになりました。

――1年目といえば、まだ同作が伸び悩んでいる時期でもありました。そういう意味では、ユーザーの規模や層(コア・ライト)の比率も大きく異なるため、早急にNerf対応することでのデメリットも生じたのかもしれません。ファヌブブ問題が顕在化しているなか、大会終了後の2018年4月以降はどうなったのでしょうか?

徐々にコアなプレイヤーが減少し始めました。

――なんと……。

一向に対策をしない運営側にしびれを切らしたものです。弁解の余地もなく、離れてしまうのも当然だと思いました。

――一部のコアユーザーだったら、人数的には少ないのかもしれません。

ですが、『逆転オセロニア』は熱量の高いプレイヤーがコミュニティを形成してくれた背景があります。

人数は少ないかもしれないですが、コミュニティの中心メンバーの士気がなくなれば、それはほかのプレイヤーにも伝播されるものです。「ここらへんが辞め時かもしれないね」……という空気が蔓延すれば、いつしかそれは止められないものになります。

実際にコアなプレイヤー以外でも辞めるケースは増えていきました。

――コアユーザーの引退は、(ライトなど)ほかの層にも影響し、結果的にブランドイメージの低下にもつながったと。その後はどのような対策を講じたのでしょうか。

まず2019年8月31日に「運営方針説明会」を開催し、今後の改修スケジュールをプレイヤーに説明しました。

この説明会は、恒例のファンミーティングの最終日に行ったものですが、和やかなイメージというよりも、(生配信含めて)プレイヤーを目の前にしてプレゼンを行う、まるで株主総会のような厳かな雰囲気でした。

この場で、「2020年1月1日に向けて対戦環境を刷新する。改修までの4ヵ月間は検証やデータ取りで協力をお願いすることがある」という旨を伝えました。

▲「運営方針説明会」公式YouTubeチャンネルより(クリックで動画へ
▲「運営方針説明会」では、現状の問題点をデータと照らし合わせながらユーザーに説明した。
※細かいバトル調整はもとより、改修の最も大きなポイントは、2020年1月よりシーズン制を導入すること。このシーズン制では、4~6ヵ月ほどの特定期間を区切り、プレイヤーとの対戦ルールやデッキ制限の条件などが変動。細かい駒やバトルの仕様変更もこのタイミングまでに逐次修正される。なお、説明会の翌日2019年9月1日に「シーズン0」として、新たなルールを適用した闘技場イベントを開催。言わば、このシーズン0がテスト期間の位置づけ。

――4ヵ月間を対戦環境の刷新で工数を使うことは、当初の計画には予定していなかったものではないでしょうか。

そうですね。常々アップデートで対戦環境は良くしていくものですが、ほかの計画を止めてまでもこの件に振り切ったのは大きな計画変更でした。ただ、今この問題に目を背けてしまえば、確実に1年後には『逆転オセロニア』は終わっていたのではないかと思います。

『逆転オセロニア』の対戦は、プレイヤーの実力とデッキ編成、そしてセンスが勝利の鍵を握るものです。駒の性能だけで勝敗が決してしまう環境は、やはり問題です。「このゲームが面白かった頃に戻る」をキーメッセージとして、スケジュールも一気に精査しました。

――私は3周年のイベントにお邪魔したことがあるのですが、そこでゲーム内外含めてさまざまなプロジェクトを発表されました。それらは……?

あ、すべて止めました(苦笑)。

実際に準備したり、一部は公開したりしていますが、3周年のイベントで発表した内容は基本的に1年遅れで進めています。計画は狂いながらも信用を取り戻すほうが最優先でした。

▲2019年2月に開催した3周年イベントでは、ゲーム内外の新機能・新展開を発表していた。

――4ヵ月先のアップデート内容を、事前に告知するのは異例だと思います。「今冬に新機能が実装」程度なら他作品でも見かけますが、締め切りを設けて実際のデータも隠すことなく公開して、具体的な次のアクションを伝えたということですね。

基本的にソーシャルゲームは、事後報告がほとんどだと思います。お知らせに突然「アップデートしました。内容は~」とかが普通ですし、事前に伝えても1ヵ月先程度ではないでしょうか。情報のバランスは考慮すべきですが、あまりにも固執し過ぎるとプレイヤー側と運営側に情報格差が生じてしまいます。

その格差が乖離すればするほど、運営側は「これを実装したらプレイヤーは納得してくれる」という慢心が募り、プレイヤー側は「情報が見えてこないから不安になる」とコンテンツ離れが巻き起こる。

――だから“2020年1月1日に向けて”と明言されたのですね。

そうですね。「なんとかする」……というボヤっとした回答では意味がない。「この日までには良くなる」とはっきり伝えなければ、疑念は晴れません。

だから説明会でも隠すことなく、すべて正直に話しました。データと照らし合わせながら、何が対戦のなかで問題視されているのか、そしてどのように改修するのかを。

包み隠さずに伝えたことで、説明会終了後は好意的な意見も寄せられました。ある意味、プレイヤー側と運営側でコンセンサス(合意形成)が取れた瞬間かもしれません。「待っていてほしい」「分かった」という。

――まだこのタイミングでは根本的なことは解決していませんが、きちんとユーザーに説明したことでつなぎとめるきっかけにもなったと思います。

はい。……ただ、その翌日、リリースして以来の最大の炎上になりました。

どん底時代を支えたユーザーの雄姿

――え……。なにがあったのでしょうか?

炎上の原因は、説明会の翌日に公式Twitterで公開した新駒のスキル動画でした。その動画では「対戦環境を乱している原因の一端となっている駒をさらに強化できる」と誤解を招くような内容でした。

「プレイヤーの実力とデッキ編成が~」と伝えていたにもかかわらず、結局は駒の性能に左右されるという誤解を招く内容を、即日発表してしまったのです。

▼該当のツイート

――実際はそういうスキルではなかったのですか?

そういう場面もありえますが、限定的なケースです。ただ、我々は一貫性のあるメッセージを伝えなければいけない立場なので、少しでもずれが生じたのであれば、運営側の落ち度です。この事実を受け止めるしかありません。

――事前に動画などはチェックされたのでしょうか?

本来、『逆転オセロニア』に関する情報は、世に出るタイミングで基本的に僕がすべてチェックします。ですが、唯一このスキル紹介動画だけは確認ができていませんでした。

たしかに出たときに「大丈夫かな…」と思ったものですが、実際に触ってもらえれば理解してもらえるだろうと過信していました。この誤解はコミュニティにも伝播し、止められないほどの広がりを見せ始めて、結果的に過去最大の炎上になったのです。

――コミュニティが強固なものだからこそ、ネガティブな情報や噂が蔓延したとき、マイナスに一気に振り切ってしまうのかもしれません。本来、説明会を機につなぎとめるユーザーですが、その後のアクティブユーザー数などはいかがでしたか?

急落したわけではありませんが、明らかに下降トレンドに入った印象を持ちました。というのも、ゲーム内イベントを実施しても全然アクティブユーザー数が上がらなかったのです。真綿で首を絞められるというのは、まさにこのことで、3ヵ月かけてゆっくり落ちていきました。

そして2019年12月には、一度、『逆転オセロニア』が急成長した2017年1月から数えて過去最低のアクティブユーザー数を記録しました。

――それだけユーザーは運営側に失望したのですね。……私のような第三者からすれば、ボタンの掛け違い程度で済む話かなと思うのですが、これを機にここまでの影響を与えるのは、本当に驚きました。

約束した次の日にそれを破る、まさに裏切り行為でしたので。

――下降トレンドに陥った背景は、やはりコアユーザー離れが起因して、ほかのユーザーも徐々に辞めていく流れでしょうか。

そうですね。コミュニティに属さず遊んでいるプレイヤーも大多数いるのですが、雰囲気の悪さは必ず影響を与えて、それこそ辞めるタイミングを作ってしまうものです。

――コミュニティに属さない潜在的なユーザーにも影響を与えるとは、コア層の熱量は本当に大切なのかもしれません。それでも改修作業は進めなければならないと思いますが、実際にどのようなことを行ったのでしょうか?

一時的に大胆な仕様を設けて、テストを繰り返して、意見を聞いて、次に活かすという地道なものでした。

たとえば、対戦の課題には長らく先攻・後攻の勝率問題がありました。昔から先攻が有利になっていたのですが、その差分を埋めるために、後攻側にHPが〇%加算されてスタートする機能を試したのです。その数値が15%なのか、8%なのか、細かい設定値をいろいろなイベントで試しながら最終調整していきました。

――こ、細かい。それもユーザーに意見を聞きながらですよね。

はい。みなさんの体感もありますので、意見を聞きながら、そしてデータも生配信で開示しながらやりました。生配信は進捗報告会の側面もあり、「来月はこうします」などキャッチボールのように積極的にプレイヤーと意見を交わしていきました。

▲進捗報告会を逐一配信。公式YouTubeより

――もはや、ユーザーもある種のプランナーですね。

もう“共創”でしたね。

――開発・運営チームの当時の状況はいかがでしたか。気にしすぎかもしれませんが、みなさんプロとはいえ、ひとりの人間です。ユーザーが減り続ける状況において、モチベーションの維持を保つのは容易なことではありませんし、香城さんも管理者としてチームをケアする場面も多々あったのではないでしょうか。

たしかに炎上後は、本当に苦しい時期でした。ただ、2020年1月1日までと約束したからには、走り続けなければなりませんし、毎週のチーム定例でも「今は辛い時期だが、1月1日にはこうなる。そして最高の形で4周年を迎える」とひたすら言い続けました。実際にチーム内はそれほど淀みもありませんでした。

――そうだったのですか。

それに自分の仕事を誰と約束するかは往々にしてあると思います。プレイヤーだったり、チームだったり、それこそ会社だったり。

ときに運営都合で「すみません、遅延します」と言い訳のように説明できるものですが、今回はその言い訳を不要にしたかったのです。だから明確に日程を決めましたし、会社側にも「プレイヤーに明言したのでやり切るしかない」と。

――もう数字が証明してくれるしかないということですね。

はい。言葉だけではなく、背水の陣として覚悟を持ってやりました。あと、この4ヵ月間を突き進むことができたのは、リアルイベントのおかげでもあります。

――どういうことでしょうか。

実は、2019年10月から12月にかけて全国大会「オセロニアンの戦 2019」を開催していました。当然、今回の改修と並行して大会の企画や運営も行っていたのですが、いざ足を運んでみなさんが戦う姿を見ていると、本当に励まされたのです。

▲毎年恒例の全国大会「オセロニアンの戦2019」

現在進めている改修が実現できなければ、いま目の前で広がっている光景や、地区予選から勝ち抜いてきたオセロニアンたちの想いやストーリーが潰えてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。

プレイヤーの雄姿をチーム全員が目にしたので、これがひとつの我々のモチベーションになりました。数字ではなく人です。誰に届けるのかを一切ブレずにやり遂げられた大きな要因でした。 

アクティブユーザー倍増の大逆転

――そして、迎えた2020年1月1日。

実は、前日の2019年12月31日の大晦日に、誰もいないオフィスでカウントダウン生配信を行いました。夏から続いた改修作業も終わりを迎えて、さて明日から始まるシーズン1ではどうなるのか……と。

▲2019年12月31日に配信した生放送。公式YouTubeチャンネルより(クリックで動画へ

――世間では年が変わる瞬間をカウントダウンするものですが、ここでは、ひとつのゲームタイトルの行く末を決める、また別のカウントダウンがあったと。

はい。12月31日23時より、これまでの改修作業やシーズン1の詳細、そして『逆転オセロニア』の対戦がどのように変わるのかを、定性・定量さまざまな要素を織り交ぜながら説明していきました。

説明後の2020年1月1日0時ぴったりにアップデートがはしり、実際にみなさんの手元に届くという流れとなります。

――結果は?

伝わりました。

――よかった!

ここで受け入れられなかったら、本当に終わりでしたよ。でも流入が多すぎて、深夜1時に緊急メンテに入りました(苦笑)。

――想定を超えるユーザーが集まってきたのですね。それだけ、23時の生配信を視聴していた方が多く、なおかつコミュニティにも伝播し、休眠ユーザーにも届いたものだと思います。

実際に冷え切っていた12月とアップデート後の1月を比べると、実にアクティブユーザー数が2.2倍という目覚ましい結果が出ました。

▲直近6ヵ月のDAU(デイリーアクティブユーザー)推移(※2020年2月時点)DeNA提供

――すごい。香城さんが仕掛けたのは、ある種のマーケティングかもしれません。諸刃の剣かもしれませんが、ユーザーの前で改修の締め切りを宣言して、この4ヵ月間をひとつのストーリーとして提供されました。

もちろん運営側は誠意として行ってきたと思いますが、ユーザー側は2020年1月1日が迫るたびに「どうなるの」と、不安に入り混じりながらも期待値が上がっていくものだと思います。

そして、運命の前日となる大晦日にそれらが頂点を迎え、堰を切ったようにユーザーが流れ込んだ。なかなか出来ることではありません。

ずっとボトルネックになっていた部分を、派手なキャンペーンで誤魔化したくなかったのです。プレイヤーによるコミュニティの意見を、運営がきちんと向き合い、反映し、改善に至った。そのことをプレイヤーが評価してくれたものだと思います。

――TVCMをはじめとしたマスプロモーションや、「今ならガチャ100連無料」というユーザー還元施策など、派手なアプローチは多々あります。もちろん、それぞれ必要なものですが、これだけに傾倒しても遊んでいるユーザーは「いや、そうじゃないよ!」とも思うでしょう。

そうですね。

――実際に流入のうち比率が多いのは休眠復帰ユーザーでしょうか。

8割は休眠復帰のプレイヤーだと思います。ただ、波及して新規プレイヤーにも届いていて、1月1日を皮切りにプレイヤー数は増加トレンドを記録しました。

――まさに事態は好転したのですね。

はい。2020年2月のリリース4周年では、TVCMなどのマスプロモーションなどを使わずに、コミュニティのSNSでの盛り上がりだけで再び大きなプレイヤー増のスパイクを作ることができました。まさに諦めずに、見捨てずに、応援してくれていたコアなファンたちと一緒に作り上げた“共創”の結果でした。

▲4周年記念リアルイベント「オセロニアンの祭典4th Anniversary」のエンディングムービー。開発初期から4年間の運営の記録として会場で流れた

――今後の運用についてはいかがでしょうか。

当然、シーズン制はまだまだ道半ばだと思っています。これからも4ヵ月に1回にシーズンが切り替わるタイミングに、定性・定量とふたつのデータを照らし合わせながら、調整してより良い環境を実現していきます。

――今回のエピソードは、まさに「ゲーム運営の妙」だと思います。もちろん、運営側が招いた事件かもしれないですが、その後のユーザー動向から対策に至るまで、本当に気付きの多い内容でした。

僕は今回の出来事で、2020年以降は「運営のコンテンツ化」が加速すると思っています。ゲームを遊ぶときに、「だれが運営しているのか」がひとつの選択肢に入るということです。

たとえば、改修の締め切り宣言からの4ヵ月間は、もしかすると、プレイヤーはひとつのコンテンツとして捉えていたかもしれません。運営側が機械的に情報やコンテンツを提供するのではなく、プレイヤーに問いかけたり、焦ったり、反省したり、伝えたり、すべての工程をゲームのコンテンツとして楽しんでくれるのではないか、ということです。

――仮に香城さんたちの新作がリリースした際には、「運営はあの『逆転オセロニア』チームが担当」というブランド戦略が通用するのかもしれません。

ええ。「それならレベルデザインは安心だな」とか、運営をひとつの判断材料や新しい価値として捉えてくれるケースが増えていけば嬉しいですね。

コンシューマにおける開発会社やクリエイターは、だれ(どこ)が担当するかが重要な要素でした。運営側は、これまでフィーチャーされることはありませんでしたが、そこに今後変化が起きるのかもしれませんね。

――昨今リリースされているゲームは、どれも本当にクオリティが高いです。翻せば、ゲームの見た目や機能面では他社とはあまり大差がない。「美麗グラフィック」や「豪華声優陣」などのキャッチコピーもプレイヤーは見飽きていますし、運営手腕が、今後の判断材料のひとつになるのはある意味健全な姿なのかもしれません。

運営都合なんて、すぐにバレる

――ユーザーと運営に主従関係は一切ないですが、一般的にサービスを提供する運営側は、どこか淡々と業務をこなさなければならない印象があります。ましてやデータを公開して課題を吐露したり、反省したり、協力を仰いだりするのはタブーとして認識されていました。だからこそ、今回の『逆転オセロニア』の事例は珍しく映ります。

思えばリスクしかないですよね。ただ、ここ数年で「ユーザー・リテラシー」はとても上がったと思います。

――なるほど。

プレイヤーは賢いです。“運営都合”なんて、隠してもすぐに見抜かれます。

――それはネガティブなことですか?

いえ、まったく。むしろ潮目が変わるサインです。僕らのビジネスのこと、そしてゲーム運営の仕組みを深く理解できるプレイヤーが増えてきました。

誤魔化したり、隠したりすることで、あらぬ噂を立てられてしまうのであれば、最初から僕たちから歩み寄って正直に公開すればいいのです。マイナスなことかもしれませんが、プレイヤーはリテラシーが高くなっているから、譲歩してくれるケースも増えていくと思います。

決して、プレイヤーに甘えるわけではありませんが、歩み寄って、理由を説明すれば、きちんと聞いてくれるものだということです。

――なるほど。ちなみに今回の件で、香城さんや『逆転オセロニア』チームが大切にされていた思想を教えてください。定性情報として、なかなか業界的には再現性が難しいかもしれませんが、少しでも踏襲できるところがあれば学びたいと思います。

重要なのは「透明性」と「誠実さ」のふたつです。

繰り返しになりますが、透明性は僕たちの考えやどういう人たちがゲームを運営しているのか、プレイヤーに理解してもらうこと。一方で誠実さは、運営都合で誤魔化したり、プレイヤーを裏切ったりしないこと。

自分たちも出来ていませんでしたが、今回の件はこのふたつの要素を改めて考えるきっかけにもなりました。なかでも「誠実」ではないサービス提供者は、これから淘汰されていくものだと思います。

――今後の香城さんの活動について教えてください。

コミュニティに根差した運営方針は、ある種、僕たちがリードしてきた背景があるので、これからも切り開いていく必要があると思います。

コミュニティ施策や運営のコンテンツ化は、再現性がないですし、後付けじゃないと数字の証明もできないので、なかなか骨の折れる業務です。ただ、間違いなくこれからも向かうべき道だと思いますし、僕たちがたくさん挑戦してたくさん事例を作っていくのも業界的にもいいのかなと思います。

――本日はありがとうございました。

企画・取材・執筆:原孝則