10周年で過去最高DAUの『ポケコロ』、独自の哲学でメタバースカンパニーへ
現在もなお高い成長率を誇る同作。着せ替えアプリとアバターサービスでジャンルを牽引し続ける同作は、他のアプリと何が違うのか。
スマートフォン向けキャラクター着せ替えアプリ『ポケコロ』(企画・開発・運営:ココネ)は、2021年9月でサービス開始から10周年を迎えた。
『ポケコロ』は、洋服や部屋をコーディネートして自分だけの「星」を作る着せ替えアプリ。作ったキャラクターを通じて友達とのコミュニケーションを楽しむことができる。同じ趣味の仲間を探すことができる掲示板機能や、つらいことがあったときに励ましあう「なぐさめの星」など、ユーザーのつながり方に独自性が光るサービスだ。
長期運営タイトルでありながら、『ポケコロ』は現在もなお高い成長率を誇る。着せ替えアプリとアバターサービスでジャンルを牽引し続ける同作は、他のアプリと何が違うのか。
運営会社であるココネの代表取締役社長・冨田洋輔氏に、『ポケコロ』の開発コンセプトと運営方針、そして同社の組織戦略まで詳しく話を聞いた。
企画・取材・執筆:原孝則
編集:神谷美恵
取材協力:島中一郎
撮影:岸波崇
入社当時の失敗からココネの思想・哲学を得るまで
――『ポケコロ』が今年で10周年を迎えました。オンラインサービスの長期運営が難しくなっている昨今、業界では数少ない、注目すべき成功事例となりました。
ありがとうございます。
――10周年の『ポケコロ』ですが、現在の状況についてお聞かせください。
配信開始から毎年成長を続け、今年は過去最高の売上高を記録しました。
――コロナ禍にありながら、驚きの好業績です。御社はアバターサービスのリーディングカンパニーとして、さまざまなアプリを展開されていますね。
主力タイトルの『ポケコロ』と『ポケコロツイン』をはじめ、ディズニー初のアバターアプリ『ディズニー マイリトルドール』、サンリオキャラクターとの暮らしを楽しむことのできる『Hello Sweet Days』、ペット育成とコミュニケーションを盛り込んだ『リヴリーアイランド』など、着せ替えとアバターサービスに特化したラインナップをご提供しています。私たちはこれらのタイトルを「CCP」というジャンルとして定義しています。
――CCPですか。
はい。「キャラクター(Character)」が存在し、「コーディネート(Coordinating)」要素をもち、「遊ぶ(Play)」ことができるサービスを意味します。
――CCPには、創業者である千龍ノ介氏(※)の思想が反映されているようにも感じますが、いかがでしょう。
※千龍ノ介氏(千 良鉉/Chun Yang Hyun):ココネ 取締役 会長。ハンゲーム(現LINE株式会社)創立、NHN Japan代表取締役会長を経て2008年にココネ創立。日韓ネット業界の立役者。そうですね。会長の千は、アバターサービスの先駆けとなった「ハンゲーム(現:ハンゲ、2019年NHN社よりココネが譲受け子会社化)」を20年前に立ち上げ、オンラインコミュニティサイトの開拓者であったと思います。
着せ替え・アバターサービスに特化して事業に携わってきましたが、このジャンルには単なるWebサービスとして片付けられない、深い思想や哲学を含んでいることに気が付きました。「CCP」という新しい名称を掲げたのは、既存のアバターサービスを超えた、新時代のコミュニティサービスへの取り組みを宣言するためです。
アバターとアイデンティティの関係はすでに様々な論考が発表されています。また、オンライン上のコミュニケーションにおいて個性はどのように表現されるべきか、というのも私たちにとって重要なアジェンダのひとつです。
たとえばNFTによって、デジタルコンテンツが物理的なモノと同じように、唯一性を持つ可能性が切り拓かれました。アバターもまた、複製不能な唯一無二の、その人自身のデジタル資産と言えるでしょう。
――冨田さんはスクウェア・エニックスから2014年にココネへ入社されました。『ポケコロ』で事業部長を務めた後、カスタマーサービスとマーケティング部門を設立。2020年1月に代表取締役社長に就任と、ここ数年で部門を横断して活躍していらっしゃいますね。
活躍と言われると恐縮ですが……(笑)。経験の幅は広いのではないかと思います。
――ココネに入社した当時はいかがでしたか。
それが、全く役に立てていませんでした(苦笑)。
――それは意外ですね。スクエニ、グリーでの経験を通してソーシャルゲームの運用ノウハウは十分に培われていたのではないでしょうか。
ソーシャルゲームの運用経験はありましたが、ココネではほとんど通用しませんでした。ランキング機能を実装してユーザー間の競争を促進するというのが当時のソーシャルゲームのやり方でしたが、『ポケコロ』でそれを導入したところ、すこぶる不評で……。スタッフにはお客様の気持ちを全く理解していないと言われ、非常にショックでした。
――なるほど(苦笑)。
今思えば、お客様のセンスと文脈、そしてタイミングをもっと深く考えるべきでした。理解も準備も不足したまま、ただシステムを組み込もうとすることの愚かさを痛感させられましたね。私にとって苦い経験のひとつです。
千とのミーティングでは、「先月最もご利用くださった方はどなた? どのお洋服を気に入ってくださっていた?」と尋ねられ、恥ずかしながら、まともに答えることができませんでした。千にもスタッフと同じことを言われたのをよく覚えています。「お客様を見ていない、知ろうともしていない」と。
それから私のマインドは大きく変わりました。お客様をおもてなしする立場なのだから、もっとお客様を理解し、深く共感できるようにならなくてはならない。お客様の体験をより豊かに、そしてリレーションシップのさらなる強化を目的にマーケティング部門とカスタマーサービス部門を設け、これまでとは別の角度から会社を支えてきました。『ポケコロ』が長く成長を続けられているのは、そういった努力がようやく実ったのだと思います。
親子三世代で支持される『ポケコロ』
――冨田さんが考える、『ポケコロ』の一番の強みは何でしょうか。
変化を受け入れ、自分も変わっていけることだと思います。経営にせよ、事業運営にせよ、環境の変化に適応していけるかどうかが一番大切です。『ポケコロ』がここまで成長できたのは、アイテムを買って着せ替えを楽しむだけの単純なサービスではない、と私たち自身が事業ドメインの定義を変えたからです。
10年も経てば市場が変わって当然で、その変化に適応するためならば、『ポケコロ』は何度だって自らを再定義し、生まれ変わることができます。20周年に向けてどう生まれ変わるべきか、今まさに社内で議論を重ねているところです。
――では、市場の変化を察知するにはどうすればいいのでしょうか。
アプリの運営者はお客様に直接お会いすることはほぼありません。だから市場の変化、お客様の変化に疎くなってしまう。そこで弊社では、すべての職種でカスタマーサポートの業務に携わってもらう機会を設けるようにしています。カスタマーサポートの仕事はお客様との最も大切な接点です。業務を通じて変化に対する感受性を磨くことは、デザイナーにもエンジニアにも貴重な経験になるでしょう。
また、お客様の行動から変化を読み取ることも重要です。お客様の心が離れると、アプリ内の滞在時間や起動頻度といった行動量が徐々に低下していきます。そのような兆候に気付いたときはスタッフからアプリ内でメッセージをお送りし、何か私たちにできることはありますか、と積極的にお声がけするんですね。経験とデータの両面からリレーションシップの改善に取り組めているのではないでしょうか。
――『ポケコロ』のような長期運営タイトルとなれば、マーケティングはユーザーの新規獲得よりも休眠復帰に重点が置かれるのでしょうか。
そうですね。今はプレイしていなくても、一度は遊んだことがあるという方は非常に多くいらっしゃるので。ただ、その一方で新規のお客様も確実に増えてきています。
――長期運営アプリで新規ユーザーを獲得するのは難しいとされていますが、『ポケコロ』をインストールするきっかけはどのようなシーンなのでしょう。
保護者の方がお子さんに初めてスマホを買ってあげた際、最初に遊ぶアプリとして『ポケコロ』を選んでいただく場合が多いと聞いています。運営者として嬉しいかぎりです。
――子供が安心して楽しめるアプリとして認知されているのですね。
『ポケコロ』の年齢層はかなり広く、三世代でご利用いただいている方もいらっしゃいます。家族で一緒に『ポケコロ』をプレイするというのが、新しいファミリー像になりつつあると言っても過言ではないでしょう。実際、『ポケコロ』は今年DAU(Daily Active Users – 1日あたりのアクティブユーザー数)が最高記録を更新しました。
――運営10年目でなお過去最高の業績とDAUを達成できるだけの活力とクリエイティビティには驚かされます。
新卒採用の面談で、学生の方から「中学生になって初めて遊んだアプリが『ポケコロ』でした」と言われたことがあるんですよ。本当に驚きましたし、私自身もその出会いに感動を抑えきれませんでした。
10代の多感な時期を『ポケコロ』とともに過ごした、いわば“ポケコロネイティブ”世代が運営チームに参加するようになり、会社全体が活気づいているのを感じます。“ポケコロネイティブ”たちが『ポケコロ』をますます魅力的にしてくれると思うと、今から楽しみでなりません。
●ココネ 東京オフィス
デザイナー一人ひとりに表現と哲学、そして戦略がある
――『ポケコロ』のユーザーはどのような遊び方をしているのでしょうか。
気のおけない友達や趣味仲間とのコミュニケーションを楽しむ方もいれば、アバターアイテムの収集をしたり、リアルの生活と同じように洋服でおしゃれを楽しむ方など様々です。ただ、その根本にはやはり「カワイイ」という感動があるのだと思います。
――アバター用のアイテムは、実物のファッションアイテムと同じような感覚で扱われているのでしょうか。
いえ、もしかしたら実物以上なのかもしれません。
お客様から伺ったエピソードなのですが、これまでブランド物の洋服やバッグを買い集めて部屋中がモノで溢れかえっていたのに、『ポケコロ』を始めてからはゲーム内のアイテムの方が大切に思えてきて、そのブランド物を全部断捨離してしまったそうなんです。部屋も心もスッキリしたし、夫まで喜んでくれているんですよ、と(笑)。
――モノでは満たされない何かを、『ポケコロ』に見出したのかもしれませんね。
きっとそうだと思います。デジタルのアイテムでも、お客様にとっては現実以上に価値のあるものになり得るということです。
――『ポケコロ』のアバターアイテムはどのように制作されているのですか。
アパレル企業のように、アイテムデザインを「商品企画」と呼称しています。デジタルアイテムを制作するのはイラストレーターではなく、「デザイナー」。
弊社のデザイナーはアイテムの見た目だけでなく、キャッチコピーも自分で考え、他の商品(アバターアイテム)と組み合わせてコーディネートを提案します。売れ行きやお客様のレビューがデザイナーに直接フィードバックされ、次の商品企画に活かされるようになっています。
――SPA(製造小売)のファッションブランドと同じサイクルですね。
仰るとおり、ほとんどファッションビジネスのマインドですね。以前、千が「デザイナーとして誇りを持ちなさい」と社員に話したことがあります。デジタル世界のファッションが人々の憧れになる時代が必ず来るからと。デザイナーの仕事はガチャのアイテムを作ることではない。『ポケコロ』のデザイナーは全員が、まったく新しいファッショントレンドを切り拓くという気概で仕事にあたっています。
――千会長が予言したとおり、バーチャル世界がエンターテインメントの中心となりつつあります。
まさに先見の明でした。そしてココ・シャネルがそうであったように、優れたデザイナーは製品だけではなく、お客様に新しい価値観を提案し、ビジネスモデルまでデザインしてしまいます。
『ポケコロ』ではデザイナー発信のイノベーションがたくさんあるんですよ。エンジニアと協力して、見た目だけでなく髪や目の動きまで変化するアイテムを開発したこともあります。日頃からSNS上のトレンドを分析し、効果的なキャッチコピーを添えたり、セット販売でおトク感を演出したりするなど、マーケターのように活動しているデザイナーもいます。
やり方はそれぞれですが、どのアイテムにも高級ファッションブランドのように独自の世界観が宿っています。デザイナーのこだわりと挑戦が、お客様の「カワイイ」を生み出す。それが『ポケコロ』の競争力の源です。
――デザイナー一人ひとりに表現と哲学、そして戦略があると。
そうです。だからデザイナーにはかなりの裁量を委ねています。最近ではお客様の憧れを集める人気デザイナーも出てきました。Google検索で「ポケコロ」と入力すると、「デザイナーになるには」というワードがサジェストされたことがあって。それだけ『ポケコロ』のデザイナーを夢見る方が増えたのかなと、何だか誇らしい気持ちになりました。
――『ポケコロ』はアプリ内に「コロット」というファッション誌まであり、大変驚きました。公認モデル(※)の着こなしが紙面を飾るところまで本物のファッションカルチャーと同じですね。
※公認モデル:数ヵ月に1回行われる公認モデル募集に応募し、それが評価されると、本作の流行を発信するファッションリーダーとして採用される。他のユーザーは公認モデルのコーデをアイテムリストから閲覧でき、ファッションの参考やアイテムを入手するきっかけを得ることができる。ファッション系YouTuberのように、お客様にインフルエンサーとしての役割を提供しようという取り組みです。他の着せ替えアプリには無い、『ポケコロ』ならではの体験をぜひ楽しんでいただきたいですね。加えて、「コロット」にはデザイナーも多数紹介されています。デザイナーのコンセプトでアイテムを選ぶというのも、これまでにはない遊び方ではないでしょうか。
日本を代表するメタバースカンパニーへ
――『ポケコロ』がファッション・カルチャーを意識している点もそうですが、『ポケコロ』は現実世界ともサブカルチャー界隈とも異なる、独自の世界を構築しようと動いているようにも見えるのですが、いかがでしょう。
それは嬉しい質問ですね。『ポケコロ』は着せ替え・アバターサービスとして展開してきましたが、将来的にはメタバース(※)へ接続しうるものだと捉えています。
※メタバース:もともとの由来は、SF作家・ニール・スティーヴンスンの著作『スノウ・クラッシュ』(1992年)の作中で登場するインターネット上の仮想世界のことを指すが、現在は仮想空間サービスの通称として用いられる。アバターチャットの「VRChat」やゲーム内でライブが開催された『フォートナイト』、企業が展示会を行う『あつまれ どうぶつの森』などもメタバースに分類される。――単純に御社側でサービスを提供するのではなく、アプリ内でスターモデルが生まれたり、他者とコミュニケーションを育んだり、自分で作ったものを売買できたりと。
はい、自然発生的に社会や経済が生まれるような感じです。これまでも実在のファッションブランドである「KEITA MARUYAMA」や「ANNA SUI」とコラボして、特別なアイテム(洋服)をアプリ内で提供しました。
昨今のメタバースの流れを見たときに、やはり弊社で掲げているジャンル「CCP」の思想は間違いではなかったと思います。お客様にとって、『ポケコロ』はリアルと両立するような、もう一つの居場所としての価値を見出せるのだと思います。
実際にお客様からも「コロナで大変だけど、ここに来ると安心していろいろな人と過ごせる」「コロナ禍の外出自粛の影響もあって、現実世界ではファッションを楽しむ機会は減ったけども、『ポケコロ』では思う存分洋服を着せ替えられて満足」という声が寄せられています。
アプリ内だけで完結するサービスではなく、現実世界(あるいは社会)とつながりを持って、かつ悩みの種までも解消できる場にもなっているのではないかと思います。
――来るメタバース市場の成長のなかで、すでにさまざまなノウハウを持ち合わせている御社ですが、改めてどこに強みを考えていますか。
価値が認められづらいデジタルデータに「どうすれば値打ちが付くか」については一日の長があると考えています。お客様は見た目の可愛さだけではなく、世界観や文脈、想像の余地など、複合的な判断を持って「このアイテムには価値がある」というふうに認識してくれています。
デジタルアイテムに価値が生じるカルチャーやコミュニティ。10年以上、最上の価値を更新し続けてきた体制、さまざまな強みが複合したものが強みと考えます。
――直近ではNFT(非代替性トークン)を通してデジタルデータに価値が出てきています。
ええ。ゲーム市場では、パラメータが付いていないものに価値を見出すのは難しいと思われていますが、デジタルで過ごす時間が増えて、大切な空間になるほどに、リアルで素敵なものを所有したくなるようにデジタルの所有欲は近づくはずです。今後はその価値観も広がっていくと思います。
その中で“『ポケコロ』の会社”だけではなく、日本を代表するメタバースカンパニーとしての知名度を上げていければと思います。
メタバースにおいて一番重要な要素は経済だと思っており、デジタルの所有権を証明するNFTというテーマや、メタバース時代のネイティブ通貨である暗号資産は必須テーマだと考えています。
そのためにも2021年8月には子会社の「Post VOYAGER社」からクリエイターの参入障壁を低くしたNFTマーケットプレイス『Cobalt』をリリース。同月には暗号資産の運用・管理事業を展開する「Hyperithm社」への投資も行い技術的にもサービス的にもメタバース・レディ(Metaverse-Ready)な企業になるべく知見を深めています。
――海外展開についてはいかがでしょうか。
台湾や韓国、アメリカなどでついに手応えを得ました。海外での着せ替えサービスの需要の高まりと、自分たちのサービスが通用し始めた実感があります。まだこれからですが、長期で成長させるのは得意なところなので、しっかりと取り組んでいきます。
――10周年を迎えた『ポケコロ』ですが、最後にメッセージをお願いします。
10周年を迎えられたことは、ご愛顧いただいているお客様のおかげと、その期待に応えるべく向き合ってきた歴代『ポケコロ』スタッフが描いた夢と努力と10年の想いの結晶です。本当にありがとうございます。
10年という節目ではありますが、まだまだ道半ばです。20年に向けての成すべきことは数え切れません。お客様の期待に応え続けられるように真摯に向き合って参ります。
『ポケコロ』から始まって辿り着いたCCPというジャンルへの挑戦は、メタバース、NFT、クリエイター・エコノミーなど表現は違えど世界のトレンドと完全に合流するものとなりました。
可愛いアバターサービスの裏で培ってきた、デジタルワールドにかけ続けた想いや哲学、組織など、いまこそグローバルでの挑戦をするタイミングが来たと考えています。
日本を代表するメタバースカンパニーを目指してまいります。もしご興味ありましたらいつでもお声がけ頂ければ幸いです。
――本日はありがとうございました。
企画・取材・執筆:原孝則
編集:神谷美恵
取材協力:島中一郎
撮影:岸波崇